587809 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

わたしのブログ

わたしのブログ

続きです。

衛生兵たちは医療器具をトラックに積み込んでボイラー等は爆破する。ガラスは全部破壊する。私も手伝った。四列に組んだ患者の列に遅れて一人の患者が「自分も連れて行ってくれ。」と這ってきた。見ると浮腫が醜い。足まで浮腫が来てしまっている。「しっかりしろ。」と気合を入れて最後のトラックまで連れて行った。また、院内へ行って爆破の作業をした。その作業は全て手留弾で行われた。私はいつも銃持っていたので患者の列の後ろで護衛しながら錦県駅の本院まで行った。遥か公報で爆音と黒煙があがった。
 街に入ったら満人たちが道路の両側に出てなにやらいいながら見物していた。衛生兵の護衛も前方に五十人くらいいる。皆、銃を持っている。軍歌を歌いながらの行進である。そのために満人たちはまだおとなしかった。まもなく本院に着いた。
 見ると営庭に大きな焚き火を囲み看護婦たちが私物を焼いている。パラソルを一回拡げそれから目を閉じて火の中に入れた。きれいな和服なども一回拡げ後ろを向いて火中にする。まったく女の心情をあらわしている。皆、これで判るだろうと思う。泣いているようにも見えた。トランクのようなものもいっぱい燃えている。
 もう夕暮れである。駅の待合室から兵隊たちの合唱が聞こえてきた。自棄的
に聞こえる。良く見たら独混であった。独混とは独立混成旅団のことでどくろのマークをつけた現役兵で鉄道沿線守備隊のことである。主に満鉄の沿線警備をしていたのだ。この隊がいるうちはどこでも安心だ。
 これから先私たちはどうなるのだろう?列車は動き出した。
外は真っ暗になって夜風が冷たい。夜半頃、衛生兵が一升瓶で酒を配ってきた。皆、口のみで私も一口飲んだ。そしてタバコに火をつけ・・・・内地から来たときはこの鉄道で何も知らずに錦県駅に降り立った。今回は同じ鉄道を逆に奉天を目指すことになった。車掌室にはいり、時々休みながら「このまま内地にかえれるかなぁ。」・・・なんて考えていた。私は軽勤務の名札はちぎって錦県に棄ててきた。どうせ私は・・・員数外・・・自由になれる。奉天でどうなるか見定めて、それからの行動は自分でもわからない。白衣でないのがせめてもの幸せだ。
 夜があけて昼頃に,パン半斤くらいアンコがついていた。「俺は水がなければ食えない。」なんて軍隊では通用しない。奉天に着いた。
 列の兵長が私に「俺たちは朝鮮に入るようだが、お前ともお別れた。奉天の病院に迎えに来た衛生兵と共にはいるように申し送ってある」私は「そんな馬鹿なことはない。俺も朝鮮に連れて行かないのか?」しかし、彼は「軍隊と言う所は固くてなぁ。まあ、生きていればまた奇遇と言うこともあるさ、な、ここで別れるぞ。」と言って消えてしまった。途方にくれたが員数外の身分である。しおしおと仕方なく白衣の行列の後ろについて駅前の広い通りをキョロキョロ見ながら歩いた。


© Rakuten Group, Inc.